公開日 2023年02月17日

生物資源科学部EMSニュース2023年2月号

 

 日本列島は1月下旬に近年まれにみる寒波に見舞われ、松江市でも38センチの積雪を記録しました。松江市内で30センチ以上の積雪になったのは5年ぶりのことで、1月25日には最低気温は-3.8℃を記録し、厳しい寒さとなりました。このような降雪と寒波により、日本各地の道路では数十キロに及ぶ立往生がいくつも発生して、その解消には数日を要するといったニュースが報道されています。ニュース映像で雪の中に延々と続く車列を目の当たりにすると大変な衝撃を受けてしまいます。このような立往生の中で暖房を確保するためにもエンジンを掛けていれば、ガソリンや軽油などの燃料が消費されますので、中には燃料タンクが空になってしまう車もあったでしょう。実際に立往生解消の際にはタンクローリーなどの給油用の車両が出動したようです。しかし、もしこれらの車両の多くがEVであったとしたら・・・。ぞっとしませんか?
 
 政府は2050年までに温室効果ガスの人為的な収支をゼロにするための取り組みとしてカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。このカーボンニュートラルに向けた取り組みとして、自動車産業界でも「2035年までに乗用車の新車販売で電動車(HVやFCVも含まれているので、すべてをEVにするということではない)100%を実現する」という目標が定められています。そのため、各社は電動車の開発にしのぎを削っています。一方で、日本のEV普及率は0.88%(2021年の燃料別新車販売台数(普通乗用車)の割合)であり、EUの9.1%、中国の11%、アメリカの2.9%に比べれば、かなり低い水準にとどまっています。日本においてEVが普及するための課題は急速充電器などのインフラ整備が不可欠であり、政府は「2030年までに急速充電器を今の4倍となる3万基を設置すること」を目標にして政策展開を行うとしています。
 
 上記のEV普及率が示すように日本よりも欧米、とりわけEUにおけるEVへの転換姿勢は急進的で、「欧州グリーンディール」に関する法案の中で2035年にはHVも含めてすべてのガソリン車・ディーゼル車などの内燃機関車を事実上禁止するという提案がなされました。これに対して自動車業界では反発を強めており、切迫感は業界全体で共有されています。また、日本のトヨタ自動車は例えば日本の乗用車がすべてEVとなった場合には原発10基分に相当する発電所が必要となるわけで、電力需給の在り方を根本的に変えない限り困難であろうとコメントしています。そして、ここへ来て、イタリアやポルトガル、スロバキア、ブルガリア、ルーマニアの5カ国がEUによる2035年までの内燃機関車の事実上の禁止措置の5年延期を要請しました。背景にはロシアとウクライナの紛争による電力危機があります。また、欧米を中心として記録的なインフレによる燃料価格の高騰も全面的なEV化の見直しを考える要素になってもいます。
 
 世界的にカーボンニュートラルへの対応が叫ばれてきましたが、近年の国際情勢と経済状況により電力の確保に関する懸念材料が噴出しています。昨年のこの稿でも世界の電力問題について触れましたが、ミネルバのフクロウはまだ旋回中なのかもしれません。この冬の大雪のニュースがエネルギー問題を改めて見つめなおすきっかけになりました。
 参考資料
 https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-4.pdf
 https://evdays.tepco.co.jp/entry/2021/09/28/000020
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR13DST0T10C21A7000000/
 
島根大学生物資源科学部環境マネジメントシステム対応委員会委員長 松本真悟

 


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